いくら普段どおりを装ったとしても、誤魔化せない部分もある。

自分でも気にしているほどに血色が悪くやつれた顔に、沙世が気づかないはずがなかった。


「ちょっと、いろいろあって・・・」


なんとなく気まずくて、目を逸らしてしまった。


「先生は身内に不幸があったとか言ってて、それはあたしが突っ込むべきじゃないってわかってる。
でも、久しぶりに会ってこんなふうになってて、心配もさせてくれないの?」


今にも泣き出しそうな沙世に、何と言えばいいのだろう。

まだ私だって受け入れられていない事実を、どうやって話せばいいのだろう。


「・・・・ごめんね」


迷った挙句に私は、それだけしか言えなかった。

沙世の顔は、見られない。


しばらく俯いていると、沙世が立ち去る気配がした。

これ以上失うものはなにも無いと思っていた。

けれど私は最後に、せっかく手に入れたはずの大切なものを、自ら手放してしまった。

失ったものがもう二度と、変わらないままで戻ってこないことを、誰よりもわかっているのに。


スカートの上で握りしめた拳には、力が入らなかった。