「そうやって生きるしか、ありませんでしたから。素直に生きる術を、知らないんです」
自分の意見なんて、本心なんて言えなかった。
そんなものを口にした瞬間に、私の中の汚さが見えてしまいそうで。
そしてそれが少しでも露見したのなら、誰も私のそばにはいてくれなくなってしまいそうで。
知りたいことも、なにひとつ訊けなかった。
そんなことを問いかけた瞬間に、今まで築き上げた幸せが壊れてしまいそうで。
危うい均衡を保っていた繊細な関係が、まるで波にさらわれた砂の城のように、跡形もなく消え去ってしまいそうで。
まるで、はじめからなにもなかったかのように。
いつだって、いつだって。
周りが望むように振る舞った。
期待どおりに生きてきた。
それが苦痛だったわけじゃない。
嫌だったわけでもない。
自ら望んで、私はこの自分を作り上げたのだ。
本当の自分を見せたら、みんな離れていってしまうから。
存在する価値なんて、一瞬で消え去ってしまうから。
幸せが、壊れてしまうから。


