「そこできみに白羽の矢が立ったというわけだ。直系で長谷川の血をひくのは、現在きみ一人。分家はともかく、直系はもう増えることはない。長谷川家は母方の実家だということもあって、母には血を絶やしてはいけないという使命感があるんだ。
菜穂との仲は良好だから、わたしは普段はそんなことは忘れてしまうけれど。ただ、できればとはいつも思っているはず」
できれば。
つまり“できれば”長谷川の長男の娘であり直系の血をひく最後の人間である私に、家に入ってほしい、ということだろう。
いや、もともと私の名字は長谷川だったのだから、長谷川家に入るという表現は間違っているのかもしれないけれど。
そう考えれば考えるほどに、私の今の苗字が高橋であることに違和感を覚えてしまう。
「きみの意見を聞かせてほしい」
頷きながら黙って話を聞いていた私に、叔父が意見を言うように促した。
「・・・・・長谷川の姓に戻って家を継ぐことによる、私のメリットは」
嘔吐した際に逆流した胃液で喉が焼けているようで、やたらとかすれた声が出た。
それでも、私はまるで商取引でもするかのように、冷徹にさえ聞こえるような言い方で問いかけた。


