「菜穂とは大学のときに友人のパーティーで知り合ったんだ。藤城女学院を知っているかな、そこに幼稚舎から通っている純粋培養のお嬢様で。一目惚れだった。勉強だけが取り柄だったわたしが。自分でも、今でも笑ってしまうよ」
またも愉快そうに破顔する叔父。
こうして見ると、とても勉強だけが取り柄だったとは思えない。
不器用で短気だった父とは正反対だ。
藤城女学院といえば、日本三大女子大のうちのひとつである。
入学試験に家柄の審査があると噂されるほど育ちの良い子女たちが集まっており、日本の女子大の中ではもっとも学力レベルが高いと言われている。
そこに通っていたという菜穂さんは、どこか母と似た雰囲気をもつ女性だった。
儚げで、美しくて、神秘的な危うさを秘めた表情で、叔父に寄り添っていた姿を思い出す。
まだ叔父の話は続く。
菜穂さんも叔父に好印象を抱いていたらしく交際がはじまった。
長谷川の祖母が家柄も釣り合っていると認め、人生のパートナーとしては申し分なかった。
そうして二人は結婚。
しかしここで先の問題に戻る。
菜穂さんが子どもを産めないことは、長谷川家を継ぐ者がいなくなるということ。
会社はいいのだ。
後任に相応しい人間がきっと台頭してくる。
しかし長谷川家はそういうわけにもいかない。
長く続いた長谷川の血が、叔父の代で途絶えてしまうのだ。


