そして叔父は話を戻す。

父は病気のことも、家には伝えなくとも叔父にだけは打ち明けていた。

死期が近いことも、叔父だけは知っていた。


「辛かった、いくら兄さんの意志だからといって、親にすら黙っていることは。でも、兄さんの想いを尊重して、母には言わなかった。そして先日、兄さんは旅立った。
それを知った母が、とんでもないことを言い出した」


“雅人の娘を、嘉人の養子に”

父に子どもが生まれたことは、黙っていても長谷川家に伝わった。

だからといってどうすることもなく、年月は過ぎていった。

もう父が家に戻ってくることも、会社を継ぐこともないと分かっていたから。

それに叔父が会社を継ぐことを受け入れていたから。


しかし困ったことになった。

叔父の妻である菜穂さんは、持病があるため薬を常用している。

その薬が問題だった。

妊娠中に服用した場合、胎児の育成に異常をきたす恐れがあるのだ。

いろいろな可能性を試してみたけれど、どうしても菜穂さんの身体と胎児の両方の命の保障ができないことから、叔父夫婦は子どもをもつことを諦めたのだという。