そのまま父は優先入学で皇ヶ丘の大学へ進学。

経済学部に入ったことで、祖父母は父が会社を継ぐことを疑わなかった。

しかし大学生活もあと一年を残すところになった時、あっさりと父は言ったという。


「うちの会社は継がない、俺は自分の力で生きていく、と。当然両親は激怒、家族仲は最悪。就職先が決まると、大学卒業を待たずに兄さんはまた家を出て、それからもう戻って来ることはなかった」


そして就職してしばらく経った後、父と母は出逢った。


「自分がこれまで生きてきた日々を、誰かに認められた、認めてくれる人がいたと、珍しく照れた様子で教えてくれたよ」


結婚を決めたけれど母の両親の反対にあい、母も両親とは決別。

身内から完全に孤立したふたりだった。

私にとっての祖父、つまり父の父親が亡くなったときも、父は葬儀に参列すらしなかったらしい。

それでも父は、叔父とだけは連絡を取り合っていた。


「美波さんの妊娠が判ったとき、真っ先に教えてくれた。きみが生まれてから、家にも呼んでくれた。だから実は、この前が初対面じゃないんだ。
きみは本当に、美波さんにそっくりだ」


叔父はそこで言葉を切った。

そして嬉しそうに、懐かしそうに目を細めて笑った。

胸を締めつけられるような、切ない気持ちになった。

父より五歳若い叔父の笑顔は、五年前の父と同じものだったから。


「でもその瞳の強さは、兄さんと同じだね」


そんな慈しむような笑顔を向けられることになれていなくて、居心地が悪くなって俯いた。