翌日の昼すぎ、私は高級そうな料亭に連れてこられた。

叔父の運転していたダークブルーの国産車は、下手な外車よりもよっぽどランクが高いだろうと思われる。

牛の本革のシートは滑らかで手触りがよく、私が数日間滞在している安いビジネスホテルのベッドよりも遥かに寝心地がよさそうだった。

一見客は入ることができないようなその店に足を踏み入れた瞬間、三つ指をついた女将らしき威厳のある女性を筆頭に、お待ちしておりましたと一斉に従業員がひれ伏すように頭を下げる。


「長谷川さま、どうぞこちらへ」


促されるままに上着を預けると、白塗りの顔に完璧な笑顔をはりつけた女将が足袋を滑らせて歩くのに続いて、腰に叔父の手を添えられながら進む。

畳の香りがほのかにする部屋へと案内され、私は正座したまま動けなくなった。

エアコンのような無風流なものなど一切ないその和室は、それでもとても心地のよい温度に保たれていた。

丁寧に磨き上げられた机には、自分の顔が映り込んでいる。

その自分の顔を見つめていた私は、いつの間にか部屋には叔父と二人きりになっていたことに気がつかなかった。


「足は崩さなくて大丈夫かな」


突然かけられた声に、無意識に肩がびくりと跳ね上がる。