私と夏希さんは、父のいる病室ではなく、エレベーターホールの正面の休憩所にいた。

そこで聞いたのだ、先ほどの話を。


「あなたのお母さんの訃報を知らされた時、ちょうど抗がん剤を投与し始めたすぐの頃で。副作用がひどすぎて、とてもじゃないけど出かけることなんてできなかったの。口内炎はびっしりできていたし、食べてもいないのに吐き気が止まらなくて」


耳を、塞ぎたくなった。

涙とともに嗚咽が溢れ出しそうになり、そのどちらも必死に押し込めた。

自分の意思では引きずり出せないほど奥に、奥に。


その後も夏希さんは父の病状について話していたようだったけれど、私はほとんど聞いていなかった。



「私のことを、どう思っていますか?」


ようやく話が途切れた頃に訊いてみた。

どういう気持ちで私をここに呼び寄せたのか、という意味も含めて。

唐突すぎたからだろうか。

彼女は少し驚いたような表情をしている。


「それは、あなたに訊きたいわ。あなたの瞳には、私はどんな風に映ってるのって」


ひとつ息を吐き、そしてまた彼女は言葉を続けた。