「胃がん・・・」


呆然とする私に、夏希さんは言った。


「そう。手術して、治ったと思ったんだけど・・・甘かったみたい。今年の夏ごろに、再発したのがわかったの。抗がん剤もいろんな組み合わせを試したのにどれも効かなくて、そのくせ副作用だけは酷くて」


再発してからあらゆる治療をしたけれど、進行が早く、食い止められなかったらしい。

再度の手術に耐えられるほどの体力は、父にはもうなかった。


父が耐えてきた苦しみは、どれほどのものだったのだろう。

私の記憶では、父が体調を崩したことは一度もない。

父はいつでも私に、体調不良は自己管理の怠慢からくる、としつこいほどに言っていた。

だから私も、今まで風邪ひとつひいたことはなかった。


「夏ごろ、ですか」


夏といえば、母が亡くなった季節だ。

ということは。


「入籍した、直後だったのよ・・・」


唇をかみしめたその顔からは、消すことのできない疲労の色と焦燥感が見てとれた。

彼女への嫌悪感は、もう気にならないほど小さくなっていた。

そんなことを考えている余裕が今の私に無いだけかもしれないけれど。