「さっき、病室の引き出しの中に、雅人さんの携帯電話を見つけたの。普段は絶対に勝手に触らないのに、なぜだかわからないけど、私は無意識にそれを操作してしまった。
そうしたら、何日にも渡って、同じ番号に電話をかけていたことがわかった。面会時間が終わって、私が帰った直後に、毎日、意識がなくなる前日の夜まで。それで、もしかしたらと思ってかけてみたら、あなただったの」


やはりあれは、あの電話は、父からのものだったのだ。

電話のむこうには、たしかに父がいたのだ。

受け止めきれないほどの想いが一気にわき上がり、私は手で口元を覆った。

安堵というには無責任すぎる、そんな想いが。


「ねえ、お願い、雅人さんに会ってあげて。最期に一緒にいてあげて」


信じられなかった。

父が私に会いたがっていたという事実。


もしかしたら。

もしかしたら。

私はもう、父に恨まれていなのかもしれない。

もう、憎まれていないのかもしれない。


願望と現実の区別がつかない。

それでも私は無意識に、口走っていた。