「父の、意思・・・」
「そう。意識がなくなった日の朝、いきなり“亜美に会いたい、呼んでくれ”って。あなたの話はよく聞いてたけど、連絡先も分からないのに困ったわ。でも夏、あなたから届いた手紙を、私も偶然読んでしまって。それに、母方の実家に行くって書いてあったのを思い出したの」
その手紙とは、すべてが一段落して自分の今後について決まったときに、父に宛てて出したものだろう
茶封筒に白い便箋一枚の、素っ気ない手紙。
自分はこれから母方の祖父母のもとで暮らすということのみを書いて投函した。
ほんの少し、わずかな期待を込めて、新しく契約した携帯電話の番号を記して。
父が知っているのは、前の携帯の番号だったから。
もしかしたら連絡をくれるのではないかと、淡い希望を抱いたのだ。
「でも、そこがどこか知らないし、その手紙も今はどこにあるのかわからなくて」
たしかに、この番号が私の携帯電話のものだと知ってかけてきていたなら、最初のあのやりとりは不要なはずだ。
それについて訊ねると、女の口から、私が想像し、望んでいた答えが出された。


