全身が心臓になったかのように、どくん、どくんと脈打った。

衝撃が、私の心を貫いた。

痺れたように身体が動かなくなり、私の瞳にはなにも映っていなかった。

ただ、父と過ごした日々が、まるで走馬灯のように私の頭の中を駆けていった。



電話のむこうにいる女が、私の言葉を待っているのがわかった。

まるでその女がすぐそばにいるような緊張感が漂う。

数分間、私たちは二人とも押し黙っていた。

沈黙を破ったのは、私だった。


「・・・・父は、私に看取られることを望んでいないはずです。だから東京へは行けませんし、父には会えません」


はっきりと、静かに告げた。

そう、これでいいのだ。

私と父は、もう名字も違う他人なのだ。

私は父に合わせる顔がない。

父の期待を、託された夢を裏切ったのだから。


けれど女は食い下がる。


「でも、これは雅人さんの意思なのよ」


懇願するような、それでいて諭すようなその声に、引き留められた。