「雅人さんは、二年前から病気なんです。手術もしたけど、もう・・・もう、だめみたいで。
だから亜美さんにだけは、最期を一緒に過ごしてあげてほしいんです。せめて亜美さんだけでも・・・」


告げられたひとつひとつの事実が結びつき、線になっていった。

それが頭の中にするりと入り込んだ瞬間、立ちつくしていた私は力が抜けてベッドに座り込んだ。

冷や汗が吹き出し、冷たくなった手が小刻みに震えている。

私は思い出していた。

父からの、あの手紙のことを。




母が亡くなった日、一枚の封書がフローリングの床に打ち捨てられたように落ちていた。

虚ろな瞳の端に映ったそれを、私は緩慢な動作で拾い上げた。

宛先は、母と私。

差出人は長谷川雅人、私の父だった。


そこには、母ではない女性と永遠を誓い合ったと、あまり上手ではない父の字ではっきりと記されていた。

母は私のせいで、父に捨てられたのだ。

私の存在が、父が家を出る原因を作り、そしてその数ヶ月後、両親が離婚した。

そしてそれから一年以上の時が流れ、父には再び、愛する女性ができた。

それが私のせいではないとは、どうやっても考えられなかった。