「…もっえちゃーん…萌ちゃんいる?」
部室がならぶ棟の四階、文芸部室のドアを開け、元気よく叫ぶ栗毛に緑の左瞳が映える少年、久我 柳【くが やなぎ】は室内を見てがっかりする。
「萌黄は見ての通りいませんが、どうかしましたか?リュウ…」
片手に『召喚魔術について』という本を持ち柳と会話をするのは、焦げ茶の髪に不思議な紫暗の瞳をもつ、息吹 紫苑【いぶき しおん】である。
二人とも、この学園の二年生で文芸部員だ。



この龍ケ崎学園は、自由な校風で、制服の着用は式典以外では義務付けられていないため、生徒のほとんどが私服で登校をしている。
もちろん柳や紫苑も私服である。
また、部活動にも力を入れている為、部室のならぶ棟もあるのだ。



「いやぁ~興味深いつーか、不思議な話しを入手したから早速報告しょうかと思って来たんだけど…紫ぃーちゃんだけ?朽ちゃんは?」
「朽葉なら売店へ行きましたが、二人とももうすぐ戻って来るでしょう…五限目が始まり、食堂があきますから」
会話のため中断していた読書を再開した紫苑に続き、柳も身近の本を手にして数分、ドアが開いた。
「すまん、売店まだ混んでたんや…」
開いたドアからパンを抱えた茶色の髪と瞳の少年、時雨 朽葉【しぐれ くちは】と、その後ろで突っ立っている黒服眼鏡の少女、萌黄が見えた。「萌ちゃん!興味深いっていうか、不思議なっていうか、妙な噂話入ったんだけど…」
柳が本を置いて立ち上がる。