駐車場へ行き、車のエンジンをかけて、一気に窓を開けてエアコンを全開にする。



ラジオでは懐かしい曲がかかっていた。



テツと聴いたR&Bだ。
この曲を聴きながら淹れてくれたコーヒーの味が忘れられずにいる。


目を閉じる。






テツは私に言った。




「みちるはトラジャみたい。」



これがコーヒー豆の名前だと教えてくれたのはテツだ。



「トラジャってね、インドネシアの名品って言われてるコーヒーなんだ。
何度飲んでも飽きないの。

ごく限られた高地にだけ生息していて、まろやかで深いコクがあっていい豆なんだ。

ビンタントラジャっていうのもあるんだけど、ビンタンっていうのは星を意味してて、トラジャっていうのは山を表すんだ。




私も今ではトラジャが大好きなコーヒーになった。


独特の深いコクは、決して他のコーヒーでは味わえない。






曲が終わる頃車の中は冷えて、私はアクセルを踏んだ。