「やるねぇ!あの婚約者!もとは執事だったとは思えない!!」


オッサンかよ…


カフェテリアのテーブルを勢いよく叩いて

静香は足を組み直した


「なんか…突然すぎて、思考回路が追い付かないんだよね…。」



「何いってんの?!
もう主従関係じゃなくなったんだよ?

対等な立場で愛し合ってるんだもん、これくらい普通っしょ。」



主従関係じゃなくなった

確かにそうだ…


犬居さんの頃は
執事だから私のそばにいてくれるんだって思ってた


でも
今は違う



私たち…
付き合ってるんだよね…



「後はヤっちゃえば問題なし♪」



ブホッ!

ゲホゴホっ!!


静香の衝撃的な一言に
白いテーブルクロスにミルクティの染みができた


「きったねぇ!
大丈夫?何動揺しちゃってんの?」


「そりゃ…突然そんなこと言うから。」


紙ナプキンで口を拭く


「なんで?
ってか普通付き合ってたら、ヤっちゃうじゃん?」


金髪の縦ロールに
スカイブルーのネイルが輝く指を絡ませ
静香は不思議そうに私を見る


「それは、静香の周りの普通でしょ?!

私なんて…そんなの…」



大和さんの笑顔
引き締まった無駄のない体
細い腰
大きな手



あの身体に…



想像しただけで
全身から火が出そうな位熱くなる


ドクンッ


その瞬間
忘れていた黒い影が落ちた

“ほら!足を開け!!”



おぞましい記憶が
私のからだの熱を奪う…



背中に一筋の冷たい汗が滑り落ちた


「ちょっ…
鈴?大丈夫?」


静香の声で我に帰る


その時
初めて両手が震えてることに気がついた


握りしめたミルクティよりも手先が冷たい


「ああ、うん。
大丈夫。」


誤魔化して手をテーブルの下に隠す


「顔色悪いよ?
今日はもう講義もないし…帰った方がいいよ。」



心配する静香に見送られてカフェテリアを後にした