「愛理? ちょっといい?」
部屋にこもるあたしに、ドアごしのお母さんが話しかける。

「・・・ん? いーよぉ」
あたしの返事を確認したお母さんが、ちょっと暗い顔をして入ってきた。
・・・なんか、テンション低いよ・・・?
何かあったのかな・・・?
ただでさえ、今のあたしの心境も複雑なんだけど・・・

「・・・どしたの?」
「・・・あのね、愛理には悪いんだけど・・・聞いてくれる?」
「? ・・・ぅん」

お母さんの顔を見る限り、良い話を聞けるとは思えない。

「愛理、あのね」
「うん?」
「あたしは、18で愛理を産んだけど・・・その頃のあたしは幼すぎて、結局・・・その相手とは別れちゃったのよね」

「・・・ん」

それくらいなら、分かってるよ。
詳しく聞いたことは無いけど・・・なんとなく分かってた。

「それで、女手ひとつで愛理を育ててきて・・・愛理には、寂しい思いもさせてきた」
「・・・?」

何を言いたいの? お母さん?
あたしには分からないよ・・・。

「お母さんっ」
「・・・何? 愛理・・・」
「確かに、あたしはお父さんに会ったことない・・・。でも、ずっと2人で暮らしてて、それが当たり前だったから・・・嫌だと思ったこともないし、このままで十分だよっ?」

お母さんが何を思ってるかは分からない。
でも、溢れてきた本音。
今すぐに伝えたくなった、あたしの気持ち・・・。

お母さんの目が、少し穏やかになったような気がした。

「うん・・・ありがと、愛理」
「ん・・・。 でも、本題があるんじゃないの?」

今のは、前置きだって・・・ それくらい、分かるんだよ。

「・・・うん。 愛理、聞いて?」
「も・・・もちろんだよっ!」

そしてお母さんがゆっくりと口を開く。