私とお兄ちゃんの家のキッチンで



「翠さんも南さんもお仕事忙しいでしょう?
何かお手伝い出来ないかと思って…」



美紅さんは楽しそうにエコバッグから お野菜や調味料を取り出して



「翠さんも南さんも何か嫌いな食べ物はあるかしら?」



私はダイニングテーブルに頬杖ついて



「いいえ」と ひきつった笑顔を返した


美紅さんは
「良かった」って呟いて



水色のタータンチェックのエプロンをバッグから出して着け


フワフワの茶色い巻き髪を一本に束ねた



タンタンタン……
ジャー………


お料理する音が響くダイニングで



院長の娘さんとお見合いなんて聞いてないしっ



婚約したなんて聞いてないしっ



お兄ちゃんにどうなってるのか聞こうと


ケータイを握ったけど



カタカタ カタカタ………


手が震えて アドレスから病院の番号が出せなくて




………どうして?


………なんで?


結婚なんか しない
って言ったのに



こんな肉マンと婚約なんて……



「南さん」


美紅さんに
キッチンから呼ばれて


「………はい」


低い声で答えると


「お味見てくださる?」


人のよさそうに見えるのは
その ふくよかボディのせい?



「私っ!味オンチだから」


カタンッとダイニングテーブルから立ち上がり


自分の部屋に行った