「お兄ちゃんは私の失くした記憶について何も言わないよね?」



前に本郷先生が言ってた事が気になってた



『姫が自分の事をまだ思い出してくれない』ってボクに嘆いてた




普通なら思い出して欲しいって失くした記憶、過去の話を聞かせるんじゃないの?



だけど、お兄ちゃんは一切 過去の話はしない



ただ 自分は私の兄だと言う事



鈴木家の養子になり、私とは別の家で育った事



それしか教えてくれない



「お兄ちゃんは、どうして あまり過去の話をしてくれないの?」



お兄ちゃんはグラスの水を無表情で見つめてから



ペットボトルを冷蔵庫にしまい



「何が知りたいの?」って低い声で訊いた



「……何がって………」


私とお兄ちゃんは記憶を失くす前、どんな風だったのか



私は やっぱりお兄ちゃんに恋をしてたのか



もちろん、私の恋心なんて
お兄ちゃんは知らないと思うけど


もう少し過去の話をしてくれれば、それが きっかけで思い出すかも知れない