ドライヤーを持ってリビングに戻ったオレを見て



「別に、大丈夫なのに~」


姫は少し迷惑そうな顔をした



「ダメだよ。ちゃんと乾かさないと風邪ひくから」



ソファーに座る姫の後ろに立ち
ドライヤーのスイッチを入れた



「熱くないですか?お姫さま」


「大丈夫ですよ」



姫の濡れた髪の一筋、一筋が
オレの指の間を通り抜ける




姫が生きているなら
何もいらない



例え、
二度と恋人に戻れなくても




姫が記憶を無くした時
本当にそう思ったんだ



姫の退院の日


病院の正面玄関で姫を乗せたタクシーを見送った時だって



姫が生きているなら
姫が幸せになるなら



別れを受け入れるって―――――――――――――




だけど


姫は
今もこうしてオレのそばにいる



『みーくん』とは もう呼んでくれないけれど



姫はオレのそばにいる



カチッ
ドライヤーのスイッチを切って



「お疲れ様でした」と姫に言うと



「ありがとう」



姫は振り返り笑顔を向けて



オレの胸を甘く苦しく締め付ける




これから先



オレは姫をどうしたら いい?



わからないんだ