「もう そろそろ寝るか、姫」



焚き火に水や土をかけて消すと
一瞬、目の前が真っ暗になった


何もかもが消えた
みたいに感じて
急に心細くなったけど


川の流れる音が
耳に届いて
次第に周りの景色も
暗闇にぼんやり見えて
ホッとした


「あ、それとも
近くに展望台があるから
車、走らせて行くか?」



展望台か……
少し迷って首を横に振る



「もう どこにも行きたくない」



私の言葉に
お兄ちゃんはうなずいて


「そっか、じゃあ休もう」




テントに入って
小さなランプをつけ
広げた寝袋の上
毛布にくるまる




小さなテントの中に
お兄ちゃんと二人きりで
なんだか妙に緊張する



「なんだか急におとなしいな姫
疲れちゃったか?」


テントの片隅で
片ひざを立てて座る
お兄ちゃんが
クスクス笑いながら訊く



「う、ううん、元気だよ」



今日だけは
お兄ちゃんに恋をする
自分を許そうと思ったけど



ドキドキし過ぎて
お兄ちゃんの方を
向くことも出来ない


今日で最後なのに
もったいない



「…………姫」




低い声が響いて
ドクンと一度
鼓動が大きくなった



「………姫………
オレ――――――――」




お兄ちゃんの声に
ドキドキしてると



「………いや、何でもない
もう寝よう
灯り、消すよ?」



「……………うん」



……ふっ……と
テントの中が暗くなって
隣でお兄ちゃんが
横になる気配を感じた