夕方、晩御飯の配膳を終え
ナースステーションに戻る



消毒液くさい病棟も
配膳後は
学校の給食時間みたいな匂いが
立ち込める




「顔色、悪いね?」


背後から急に
本郷先生の声がして
ビクッとした



そんな私を見て


本郷先生は声を潜め

「そんなに怯えないで
ぼくが傷つくでしょう?」


余裕たっぷりな顔で笑った。



「朝、お兄ちゃんに怒られた?」


「………いいえ」


話したくない。
きっとアレは夢だよ。
夕べ飲み過ぎて
朝、寝ぼけてたんだよ。



本当は私 朝寝坊して
お兄ちゃんの出勤
見送れなかったんだ。



だから今朝お兄ちゃんと
会話なんてしていない。



アレは夢、幻、何かの間違い。



「翠と何かあった?」


心配するように
私の顔をのぞき込む本郷先生



やっぱり この人が恋人なんて
信じられない。



そのくらい何も感じない。



私は作り笑いをして


「何もないです。
昨夜はご迷惑をおかけしました
申し訳ございません」


頭を下げて、その場を去った。