お兄ちゃんが振り返ると
玄関の床に靴が擦れて
ザッと鳴った。
「もう充分
『ずっと』一緒にいたよ、姫。
もう 充分なんだよ。」
「そんなことないっ
そんなことないよっ
お兄ちゃんの嘘つき!」
嘘つき
私がその言葉を投げつけると
無表情だったお兄ちゃんは
深く深い哀しみを浮かべて
「そうだね。
オレは嘘つきだよ
姫とした約束
1つも守れなかった」
「…………約束?」
約束って、
ずっと一緒にいるって
言ったこと?
「ごめんな、姫。
オレは姫を守れなかった」
「…………守れなかった?」
お兄ちゃんは腕を伸ばし
私の頬を親指でそっと撫でた
「一生、守ってあげたいけど
オレにはできなかったから」
「………お兄ちゃん
何を言ってるのか
わからないよ」
お兄ちゃんは寂しげに
笑ってうなづいて
「知らない方がいい。
知らなくて…わからなくていい
じゃあね、姫、バイバイ」
バイバイって
お兄ちゃんは家を出た。
引っ越しなんて
まだ先だろうに
永遠の別れを
告げられたみたいで
一人残された玄関で
ペタリと座りこみ
胸が張り裂けそうに痛いのに
どこか夢の中に
いるような気もした
理解できない。
受け入れられない。
お兄ちゃんが離れていく



