「お兄ちゃん、
本当にごめんなさい」


もう一度、謝ると


「だから、オレは何も。
謝るのは新にだろう?」


………お兄ちゃん?

一度もこちらを向かない
その背中は怒ってるから?



お兄ちゃんが
スッ…と立ち上がり


目を伏せ私を見ることなく
キッチンにマグカップを片して



またソファーに戻り
掛けてあった
ジャケットを羽織った



「お兄ちゃん?怒ってるの?」


そう訊くと
やっと こちらを見た


だけど怖いくらい無表情で


「姫は夕べ、何かオレを
怒らせる事でも、した?」


私は首を横に振って


「だけど、また酔って寝ちゃ」

「だから、そんな事
オレに関係ないよ」


背中に氷を入れられたみたいに
スゥーと冷たくなっていく



なに?どうしたんだろ?
いつものお兄ちゃんじゃない



「ああ、そうだ姫」


「な、なに?」



「オレ、ここから出て行くから」


「えっ?」


「じゃ、行ってきます」


お兄ちゃんが玄関に向かうため
私の横を通りすぎようとした時



「待って」


前に立ちはだかり
両腕を掴んだ


「出て行くって、なに?」


見上げると
冷たい目でお兄ちゃんは
私を見下ろした。