「ね、キミの恋人。
ぼくが知ってたら
………どうする?」
「え?」
「キミが記憶を失くすまで
付き合ってた人……
ぼく知ってるよ?」
ドクン…………
ひざの上の手が小さく震え出す
知りたい、でも怖い
震える手を
ギュッと握りしめた時
そっと大きな手が
私の両手に重なった
「………本郷先生?」
「教えてくれる?
記憶がないって
どんな感じなの?」
私のひざの上
重なり合う手を見つめながら
「………足元に穴がある感じ」
どんなに毎日
普通に生活できても
いつだって足元に
落とし穴があるような
自分の中に
欠落した部分があるのは
考えないようにしたって
不安で不安で怖い
私がお兄ちゃんに依存してしまうのも結局はそこにあるからだと思う
お兄ちゃんさえいれば
穴に落ちないような
いや
穴に落ちないように
お兄ちゃんに
しがみついてるのかも知れない
足元に穴がある感じ
本郷先生は言葉を噛み締めるように繰り返し
「そうか、可哀想に」
私の髪を丁寧に撫でた
私を撫でる
本郷先生の目を見た時
「やめて………」
思わず、その手を弾いた
だって、いつもと違う
その目の奥に甘さがにじんでた



