一度、深呼吸をして
気持ちを落ち着かせる
美紅さんが『近親相姦』をネタに どう振ってくるのか わからない
でも、どこでバレたんだろう？
母さんが わざわざ美紅さんに姫のことを話すとは 思えない
「美紅さん。
あなたは何を勘違いしたのか わかりませんが…オレと妹は、変な関係では………」
「あなたはお姫さまを愛してる」
美紅さんは真っ直ぐオレを見つめて話した
「私とあなたが出逢ったのは
去年、
母が亡くなってすぐでした」
え？去年？
「夏で……母を失ったショックと疲労で体調を崩し、この病院に来た時
ロビーに入った途端に外の気温との差に気分が悪くなって
うずくまってしまった私を
助けてくれたのは
そこを偶然通りかかった
翠さん、あなたでした」
懐かしむような柔らかい視線をオレに向けて
全く思い出せない
去年の夏の出逢いを彼女は話す
「あなたが南さんをお姫さまと思うように
私にはあなたが王子さまに見えてしまったのかも知れませんね
それからは、いつも見てました
あなたのことを
ただ遠くから
父のご機嫌伺いを口実に
あなたに会えないかって
何度も何度も
内科の外来や病棟、中庭、エレベーターホール
遠くから見てるだけで
翠さんは私を幸せな気持ちにしてくれて
母を亡くし、寂しかった私の支えだったんですよ」
