雪に咲く向日葵


そして小泉は一人になった。

ただ小泉は辛そうな態度も取らず、静かに箸を動かした。

まるで水でも掴むみたいに。


「ねぇ亀谷ぃ、あたし見たい映画があるんだけどぉ」

「見て来いよ、どうせホラー映画だろ。俺パス」


花子の顔は想像できた。

大蒜みたいな鼻から八の字の皺と分厚い唇、でかい顔を余計膨らませて目の周りをギラつかせる。

よくいたろ、綺麗でもない大根足を不細工に披露してる奴。

それと一緒。


「どうせなら小泉と行けよ」


まるで大きな音にでも過剰反応する小動物のような小泉。

もちろん冗談。

死ねだ、ブスだ刻まれた机をハンカチで隠す小泉を前に本気で言える筈がない。

体育が終わってずぶ濡れで帰ってきた小泉に。

僕はストローを口から離した。


「小泉はさ、映画とか見るの」

「え、あ、…うん、洋画ばっかりだけど。アクションが好きだから…」

「そうなんだ、いま面白そうなのやってるよね」


花子の視線が鋭くなる。

鞘のない不気味の刀。


「ジョルダマの事?」

「それだ!あれかなり面白そうじゃん」

「う、うん。あたしも見たいなとは思ってる」


なら一緒に見に行こう、その言葉に1番反応したのは、やはり花子。

僕は思わず口元が緩みそうになった。

我慢、我慢。


「いや、でも…」

「…亀谷ぃ」