雪に咲く向日葵


最初の異変に気付いたのは英語の時間だった。

いつも隣からは教科書をめくる音とペンを動かす音がした。

なのにその音がない。

僕は外の景色に浮かぶ小泉の姿を見た。

やはり小泉の机には何もなく、小泉は膝の上に手を置いて黙っている。


「どうしたの」


反応がない。

「小泉?」

「え、あ、ごめん」

「どうしたの、教科書もノートも出してないけど」


漫画本しか置いてない僕が言えた事じゃないけど、人のは気になる。

そういうもんだろ。

動揺を隠し切れない小泉の瞳は震度2くらいに揺れていた。

僕の前の席では、管理者が札束を綺麗に整えている。


「忘れたなら俺の貸すよ、落書きだらけだけど」

「…うん、ありがと」


折れ曲がった教科書を机の中から引き抜いて差し出す。

純白の雪のような綺麗な指が申し訳なさそうに教科書を掴んだ時だった。

小泉の指とは違う、太くて爪が改造された指が教科書を掴んできた。

その指の主は、花子。


「あたしも教科書忘れちゃったぁ、あたしに貸してぇ」

「…花子」

「何言ってんだ花子、教科書あんじゃん」


少し焼けた筋肉質の腕から指先までなぞるように視線を動かしてゆく。

赤桐が花子の机を指差す先には、確かにそこに同じ教科書があった。

花子の舌打ちが鳴る。


「いいから貸してぇ、ねぇ?亀谷ぃ」

「……ああ」