次の日の昼、小泉は花子の誘いをまた断った。
次の日も、次の日も。
小泉の周りには人が徐々に増え始めていった。
花子の周りにはいつも前田と後藤しかいない。
「どうも危険な予感がするな」
「え、何が…?」
カズが聞く。
僕は紙パックのストローに口をつけた。
吸い上げられる柔らかい舌触りの物、牛乳。
それは喉の奥で、まるで打楽器のような音を鳴らして消えた。
僕は指に挟まれた一枚の紙キレに目を向ける。
3年 前田 1.5倍。
3年 石塚 2.7倍。
2年 結木 4.3倍。
1年 藍田 7.9倍。
これは黒和オッズの紙。
「藍田は大穴すぎるかもな、やっぱ結木にしようか」
「なんだ、賭場の話か」
月に2、3度、黒和の体育館で行われる喧嘩サバイバル。
最初はただの観客だった奴らが、遊び感覚で賭け事を始めたのがこれだ。
段ボールの切れ端に賭ける人物の名前、それに千円をクリップで止めてクッキー缶の中に入れる。
それだけ。
後は管理者が責任を持って勝者に割り振る。
ほら、あそこで丸い缶を持って愛想振り撒く男がいる。
「おーい赤桐、やっぱ結木にするわぁ」
「おーう」
体育館の2階、手摺りに肘を置く僕の目には、今にも暴れ出しそうな女子の面々。
それと同じく2階にいながらも、獣のような気を放つ奴が映っていた。
郷田 花子。
「おぉぉおお!!!」
「………」
この興奮と熱が冷めた頃。
小泉への虐めが始まった。
