「ねぇ小泉さん、一緒にご飯食べようよ」
昼。
僕が弁当を広げていると、花子が小泉を誘った。
太い足を組み、3段腹みたいなソックスを履き熟す女。
それが僕の彼女。
赤桐は卵焼きを満足げに口に運ぶ。
「あ、ごめん。もう森下さん達と約束しちゃった…」
「…ふーん」
辛そうな顔で花子に謝る小泉。
青いエナメルバッグから水玉模様の弁当箱を取り出すと、椅子を直して席を移動した。
僕はきっと忘れる事はない。
彼女の口から確かに鳴った舌を打つ音を。
「花子、行こ」
「……うん」
花子の周りを覆う噴怒の気を感じたのは、どうやら赤桐も同じだった。
口の中を米で一杯に膨らませながら、花子の姿を追った。
赤桐が口を開く。
「面倒臭くなりそうだな …」
「は?何が」
ふりかけの切り口に指をかける信長が言った。
ただ赤桐は首を一度傾げると、また箸を動かす。
僕も赤桐が感じた物と似た物を感じていた。
黒和高校3年名物。
不登校者製造企画“花子さん”。
「亀、どうしたの?」
「あ、いや」
クリーム色のシャツ、馬の毛みたいな髪質のカズ。
色々な弁当の臭い、黒板の臭い、電気の熱の臭い、外の臭い。
僕は鼻の下を指で塞ぐ。
花子と出会ってから特に嗅ぎ慣れたこの臭い。
「うわ、この鮭腐ってんよ」
嫌な臭い。
