また赤桐は遅刻した。
編み込んだ黒髪、雑巾を搾ったような筋肉質の身体。
そいつは黒革の鞄を引きずりながら、僕の前の席に腰を深く下ろす。
後ろではボサボサ頭の信長が皮肉に笑っていた。
「はは、また遅刻かよ」
「うるせぇ、絡んできた奴を相手にしてたんだ」
「またかよ」
黒い鞄から日焼けした漫画本を数冊取り出す赤桐の手は、確かに殴り傷があった。
普段はしない眼鏡をかけるカズは、ペンを動かしながら微笑んでいる。
僕、赤桐、信長、カズ。
この4人を忘れないで欲しい。
「んで、亀の、その、隣のは」
「あれ赤桐君、見えてたの」
「てめぇ信長、俺の目はフジツボか?」
節穴だ、赤桐。
黒い無地のTシャツだからか、赤桐の首に垂れる金のチェーンはよく目立つ。
息苦しそうな表情を浮かべながら、小泉はペンを止めた。
「小泉あずさです」
「おう、俺は赤桐」
小泉は軽く笑顔を作ると再びペンを動かした。
赤桐は椅子の背もたれに右腕をかけ、足を組む。
黒板の方からは、硬い物同士で叩き合う音がする。
カッ、カッ、カッ――。
「あら、あらら、亀まじで髪染めたんだな」
「え、なに赤桐君、気付いてたんすか」
僕は皮肉たっぷりに言った。
赤桐は眉間をくっつけて唇を尖らせる。
まるでヤクザ。
「おいコラ亀坊、俺の目はフシダラかっ」
「――クスッ」
それは、初めての笑顔だった。
