林の中を歩くと、急に開けた場所がある。
若草色の草原。
明るい広場のようなところ。
その隅に、古びた石の階段がある。
昔あったというお城の一部かもしれない。
階段といっても、それはとても小さく、
たったの三段昇ると、
また降りるようになっている。
建物や洞窟に続いているわけでもなく、
ただ階段だけ。
横から見ると、ちょうど表彰台のようだ。
三段昇って降りるのだから、合計五段。
金、銀、銅、その次は何だろう?
鉄、アルミ。
チタン、プラチナ、ステンレス。
よくわからないけれど、
注意しないと見えなくなってしまうものを、
記念するために作られた表彰台。
そういうイメージにぴったりの階段だ。
結局それは忘れられて、
何を記念したのかわからなくなってしまった。
時々誰かがやってきて、
戯れに昇ってみる。
わたしのように。
そんな階段だ。

今日もあの日のように、
広場の隅の大きなぶなの木の影が、
階段の上に落ちている。
あの日は、
水っぽい柔らかな枝や葉から
木漏れ日がこぼれ出して、
きらきらした、
無数の水玉模様を作っていた。
あの日、わたしはそこに手でふれた。
石は太陽で暖められ
ひどく熱くなっていて、
わたしは思わず手を引っ込めた。

今は冬、
すっかり葉を落としたぶなの木は、
もう日の光をさえぎらない。
わたしはまた、階段の石に手でふれる。
冷たい手を、手袋から出して。

ほんのりとした暖かさが指先から伝わる。
ちょうど誰かの体温のように。
ふと、
誰かがいる気がして
後ろを振り返る。