宙(そら)にとけて、しまう

「おーい」
誰かが呼んでる。
「おーい、ヒロカ、おーい」
マナミの声だ。
せっかく眠ってるのに。
まだ起きる時間じゃないはず。
だいたい今は夏休みだし。

あれ?
今は本当に夏休みだったっけ。
今は夜?朝?
昨日寝たのは何時くらいだった?
それともわたしは、昼寝をしているんだっけ?

「おーい、生きてる?」
「うるさいよお」
「あ、しゃべった」

急に視界に色がついた気がした。
わたしはマナミのベッドに寝ていて、
マナミがそばで見ていた。
いつもの自分の部屋の景色だけれど、
二段ベッドの上と下では、やっぱりちょっと見え方がちがった。

「もう、覚えてるの、昼間のこと」
「えーと、何だっけ。ていうか、今何時?」
「10時だよ、夜の。昼間、海の近くに座ってたら急に気持悪くなったって」
「うん」
「それで、ヒデミちゃんが送ってきてくれて」
「そっか、そうだった」
「わき目もふらずにここまできて寝ちゃってさ」
「それは覚えてないや」

マナミは随分心配してくれているようだった。
そう、ヒデミと海で話しているうちに、めまいがして、何だかとても気分が悪くなってきたのだった。
ごめん、帰る。そう言って自分で家まで帰って来た。途中まで行くよと言っていたヒデミが、何だかんだで家までついて来てくれたのだから、相当具合が悪そうに見えたんだろう。

「オノ先生にも来てもらったんだよ。別に心配ないって言われたけど」
「え、そうだったんだ」

オノ先生というのは、近所の病院のお医者さんのことだ。

「で、なんで今起こしたの?」
「もうー、何だその言い方。ヒロカがさ、なんか急に寝言言い出してうなされてるっていうか、何か変だったからさ」
「そうなの?寝言で何言ってた」
「それが全然わかんないの。どっか外国の言葉か呪文みたいでキモチ悪かったよ」
「ひどいなあ」