ヒデミはしばらく、両脇の砂を細い指でつかんでは海の方へ投げていた。
体のまわりに小さな溝ができて行く。
いつか写真で見た、枯れてしまった川のよう。

「なあ、高池」
ヒデミがこちらをふっと見て言った。
タカイケ、というのはわたしの名字だ。
「これって新鮮な話かな。不幸話かな」
「何が?」
「だから今から話すんだって。
全然話したことない話」
「え、そんなことわたしに言っていいの」
「聞きたくないわけ」
「そういうわけじゃなくて」

ヒデミは立ち上がって、
しばらく、お尻の砂を何度も払いながら黙っていた。

「おれの姉ちゃん、このへんの海からいなくなったんだ」
「えっ!?」
「すげー昔だよ、10年くらい前」
「覚えてない。そんなこと、あったんだ」
「このへんて言っても隣の町に住んでたし。
別にそんなに話題になってなかったと思うし」
「お姉ちゃん、いくつだったの」
「5こ上」

つい、ヒデミの顔をちらりと見てしまう。
何と言っていいかわからない。
生まれたときから一緒だった
お姉さんがいなくなったなんて。
わたしだって、今マナミが死んじゃったりしたら、
きっとすごく悲しい。
でもどこかに意地悪なわたしがいて、
ヒデミがさっき自分で言ってた、
「不幸話に慣れた顔」をしていないか、
確かめているのに気づいてしまう。
わたしは顔を伏せる。

「みんな溺れたって言ってたけど、
姉ちゃんは見つからなかった。
おれ、姉ちゃんは自分でどっかに行ったって思うんだ」
「どこかに生きてるってこと?
記憶喪失とかになって」