そしてその包丁を持ってる女の子は、小結の後ろに立っていた。


「小結っ!!」


夏帆の声も女の子に届かず、無邪気な笑顔で、包丁を…振り下ろした。

またひとり、またひとりと消えていく…

随分前から嫌いだった。

自分のことが。

助けられない自分が嫌い。

誰かに必要とされたいのに、自分は必要としない自分が嫌い。

その為に自分を偽る自分も嫌い。

素直になれない自分が嫌い。

どんなに頑張っても、どんなに苦労しても…やれば結果が出るのに。

今だってそう。

小結を助けたい。

でも…死にたくない。

この一言があたしを引き止める。

誰か…誰か背中を押してよ。

ねぇ…もう誰も死なせたくないよ。

ねぇ…小結を助けたいよ。

龍…龍、逢いたい。


“西村、今行くから…”


不意に龍の声が聞こえた。

このセリフ…聞いたこと、ないよ?

そんなことを一瞬にして全部考えた。

振り下ろされる包丁がスローモーションに見えて、みんなの叫び声もゆっくり聞こえた。

何?

助けろってこと…?


“小結…”


萌…香?

萌香の声…萌香もいないんだ。

龍もいない。

もう自分を偽ってばかりじゃ…嫌なのに。

足がすくんで動かない。

ごめん…ごめんね、龍。

ごめんね、小結。

ごめんね、萌香。

あたし…駄目だったよ…

夏帆は目を強く閉じた。