ゆらり、と。
煙草の煙が、悲しそうに揺れた。
時計の針が一つ一つ進む度に、あたしは鳴らない携帯電話を手に取る。
たった一人の、その人の名前だけが見たくて。
ディスプレイに光る、その色が胸の中で滲んでく。
嘘をつくのがうまい人は、きっと優しい人なんだと思う。
傷つけないように、悲しませないように。
そう思って、ばれないように嘘をつく。
きっと彼もそんな風に嘘をついて生きているのだ。
薬指の指輪だって、彼女と居る時にはちゃんとつけているものね。
あたしと会うときは、いつも、ポケットに仕舞い込んで。
この気持ち、気づいてるんだって、思い知らされてた。
でもね
そんなのは優しさなんかじゃないのよ。
そう、力強い腕に抱かれながら、目を閉じて思う。