雪乃はそれで理解したのだろう

メモ用紙にまた何かを書き始めた

『華道のお教室で働いていると、有栖川家の人に聞きました
今は、どちらかに外出しておられるのでしょうか?』

雪乃の可愛らしい字が、俺の前にあらわれる

雪乃が、有栖川家に行ったのかよ

一人で…

耳が聞こえないのに

一人で俺を探したのかよ

俺に会ってどうするんだよ

俺は…何もできないんだぞ

雪乃から、何かを奪っていくしかできない男なんだぞ

俺はスーツのポケットに入っているボールペンを取ると、雪乃のメモ用紙に字を書いた

『残念だけど
茶佑って人は辞めたわ
今はどこにいるかわかりません』

これでいい

雪乃は何も知らないで家に帰れよ