「……無責任な男だな」
花一つに命を懸けられるほど愛した女に、
『忘れないで』
なんて言葉を遺すのは無責任で自分勝手なエゴだと思った。
愛した女を遺して逝かなければいけないのならば、
『わたしを忘れて』
自分ならこう告げるだろう。
自分を忘れて、新たな幸せを得て欲しい……。
自分が幸せに出来なかった分まで、自分を忘れてしまうくらいの幸せに包まれて……笑って生きて欲しい。
「……ホントに言えんのかな」
心に強く打ち立てた決意も、傍らで眠るキミを見たらいともカンタンに揺らいでしまう。
「……渡したくないよな、やっぱり」
こんな無防備な顔、他の誰にも見せたくない。
……例え、自分が居なくなろうとも。
「忘れないで……か」
冷たい指先で触れる彼女の体温に、口から零れ落ちた言葉は決意とは真逆のもの。
「忘れて」
死に逝く者として願う最善の幸せか、
「忘れないで」
死して尚、愛していると強く訴えるか……。
最期の一秒に紡ぐ愛の言葉はまだ、決められそうになかった。

