アネモネに変えられた侍女はいい迷惑だ。
わたしは彼女が哀れで仕方なかった。
風の神が勝手に侍女を気に入って、花の女神が勝手に嫉妬して……挙げ句は花に変えられた。
侍女の意思は無視。
彼女が一言、
「わたしは風の神を何とも思ってません」
そう言えば済んだんじゃないのだろうか……。
そう思った所で、わたしの携帯に彼からのメッセージが届いた。
『大好きなケーキ買って行くからね』
優しい彼の口調がそのまま現れた文面。
それを見て思わずはっとした。
……そうだ。
風の神は優しい人なんだった。
だったらきっと侍女も彼のことが……好きだったんだろな。
主である女神に申し訳無く思いながらも……。
「…………」
彼の薬指で、いつもくすんで光っていたリングをふっと思い出した。
もし彼が風の神で、わたしが侍女ならば……、わたしは喜んでアネモネの花になったかもしれない。
だってそうすればきっと……彼の傍で堂々と咲いて居られるんだもん。
終電前に帰って行く背中を、
締め付けられそうな胸で見送らなくても、良いんだもんね……。