「ちょっと派手じゃない?」


困ったように笑った娘に見送られ、わたしは久しぶりにバスへと乗り込んだ。


淡いグレーは昔から好んで着ていた色。


ほんのりと化粧を施した顔はすっかりオバサンになってしまったけど、白髪混じりの髪の間から枝垂れたイヤリングは今も色褪せず煌めいていた。


「ちょっと派手じゃない?」


こう言って困ったように笑ったのは、随分と昔の話。


その顔はきっと、今日の出がけに見た娘の顔にそっくりだったはず。



「おまえは控えめだからそれくらいでちょうど良い」


大人しく地味なわたしに、出逢った頃の主人が贈ってくれたのがこのイヤリングだった。


わたしとは対照的に華やかで明るい主人に手を引かれ、歩んで来た人生はこのイヤリングのように煌めいていた。


いつでもわたしに向けられていた豪快な笑顔は、もう見ることが出来ない。


空っぽになってしまった手には、永遠の愛を誓った印がある。


体の一部が無くなってしまったような感覚は拭えないけど。


薬指や耳そして胸に灼き付いた想い出は、命ある限りわたしの胸で生き続ける。



耳元で鳴るイヤリングに、主人の囁きが聴こえた気がした。