ーーおかしい。
空も青く太陽は真上で輝いている
そんな晴天の、平日の昼間

田畑が広がる田舎町ではない。
この国の首都である大きな街の中央区

普段であれば車も人も溢れ
ガヤガヤと煩い喧騒が耳につくはず。

おかしい。
静かすぎるのだ。


「おかしくなんかないわよ。仮にもこの国の最高権力機関が、無闇に一般人を巻き込む様な真似する筈無いじゃない。事前の警報と人除けの結界の結果よ。」

「わぁーってるって!俺もたまにはかっこいい台詞のひとつやふたつ言ってもいいだろ!」

「あら、今のってかっこいい台詞だったの?」


気がつかなかったわ、と
さらりと言ってのけた奈々に
陸は肩を落として落ち込むが
当然に走る足は止めない

この街で一番高い建物
能力者協会のビルに向かって走るが
能力を持たない人間の身体では
距離が全然縮まない上に疲れる

まだ3kmも走ってない筈だが
奈々に関しては既に息が上がっている


「奈々、疲れたら言えよ。おぶってってやるから。」

「嫌よ、気持ち悪い。安心しなさい、この位でバテたりしないわ……陸、ストップ」

「ぐえっ!」


陸が首に巻いていた赤いマフラーを
後ろからぐい、と引っ張ると
当然の如く陸の首が締まって呻く
が、そんなのは関係ない。

奈々の視線の先にあるのは
一人乗り用の台車、人力車タクシー
道路に置かれたそれをスッと指差すと
やっと呼吸を整えた陸が首を傾げる

これが春だったら可愛いのだが
陸がやっても何で理解出来ないんだ
この駄犬は、と苛々するだけだった


「あれを使いましょう。」

「えーっと…?あれは俺が引くんだよな?」

「なぁに?陸はこのか弱い私にあの台車を引かせて自分は後ろに座るつもりなの?陸が引くのよ、当たり前でしょう。」


にっこりと微笑んだ魔女に
陸は当然、逆らうことは出来ず


「ーーさ、早く進みなさい。」

「……あー!もう!しっかり捕まってろよ!」


うおおおおお!と叫びながら
陸は台車を引いて道路を駆けた