空の姫と海の王子



「…はて?私は既に奈央さん達の味方ですよ」

「それは分かってるって!!ちがくて、あたしが言いたいのは…!!」


奈央の言葉はそれ以上続かなかった

目尻に皺の寄ったマスターの目元が
あまりにも悲しげに見えたから

長年マスターの世話になってきた奈央でも
見たことのないほどの、悲しい表情で


「こんな老いぼれにできるのは、皆さんがいつ帰ってきても暖かいコーヒーが飲めるようにここで待つことだけですよ」

「…マスター……」

「すいません、奈央さん」


蓮はただ黙って二人を傍観していたが
それでもマスターの意志が固いことは分かった

奈央が悔しそうに拳に力を入れたのも
しかしすぐにその力を抜いたのも見えていた


「マスターはもうこの世界を諦めたってこと…?あたし達が頑張っても、もうあの場所には戻ってくれないの?」


弱々しい奈央の声は震えていて
いつもなら、らしくないだとか
馬鹿じゃないの?とか言うところだが
それでも蓮は黙って二人を傍観していた


「奈央さん」


マスターのしわくちゃの手が動いて
そっと、優しく奈央の頭を撫でた


「私は諦めてなどいません。私の希望は奈央さん達に託していますからね」

「…なにそれ」

「この老いぼれには出来ないことでも、奈央さん達なら出来ると信じております。」


ハッとして顔を上げた奈央に
マスターは優しく微笑んだ

その笑みに答えるように奈央は大きく頷いた