──空は今日も昨日と同じ

厚い雲に覆われていて
星も月も見えなかった

捨てられたビルに灯りは無く
遠くの街のネオンの光だけが
街だった廃墟から見える唯一の光


「………ん」


小さな声を漏らして
また穏やかな寝息をたてる

簡素なベッドに広がる春の髪を優しく撫でて
葵は小さく溜め息をついた


あの日と同じ

希望の消えた黒い空

遠くに見える紅い光が広がって
空も大地も海も紅く染まっていった

止まない断末魔と焼けた臭い


消えない、

消えない、

忘れたくても忘れられない

消したくても消えない


「葵様」

「………大丈夫」

「しかし、体調がすぐれないのではおやすみになったほうが、」

「リベル」


ベッドの後ろに立っていた
リベルの言葉を遮ると
葵は顔に手をやって俯いた

手に隠された目が固く閉じた


「時間がないんだ」


葵の発した言葉に含まれた苛立ちに
リベルは思わず口を閉じた


「俺達には時間がないんだよ。春、君とは違うんだ」


自嘲するように笑った葵から
目を逸らすようにリベルは顔を背けた


何も出来ない自分を責めるように
強く握りすぎたその腕からは血が流れた


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