空の姫と海の王子



──冷たい夜風が髪を撫でた

月の光も星の光も届かない空の下で
ゆらゆら揺れる海面を見つめる

聞こえるのは静かな波の音

突き刺さる様な寒さに体を震わせながらも
浜辺で膝を抱えて座る少女は
真っ暗な海から目を逸らさなかった


暖かい居場所を捨てたのは

差し伸べられた手を振り払ったのは

誰もいない場所まで逃げたのは

仲間との別れを決めたのは


誰でもない、自分なのに


「……後悔なんてしてないよっ」


小さな声で呟いた


「……寂しくなんてないよっ」


強がって聞こえる小さな声は震えていた


肩を抱き締めた

膝に顔を埋めた

どんなに強く抱き締めても
いつもの暖かい温もりは感じない

だけどこの場所なら
一緒にいられる様な気がする


「海斗………会いたいよ」


少女の唇から零れた言葉は
大きくなった波の音に消された


「………」


少女の後ろ姿を見つめる男の瞳が
戸惑いに大きく揺れた

声を掛ける為に上げられた腕は
力無くゆっくりと下ろされた


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