「──……もう、大丈夫だから」
あれから少しだけ泣いて
やっと落ち着いた奈々は
陸の胸をそっと押した
「………」
「………」
無反応な陸にムッとして
今度は少し強く押してみた
ちなみに
奈々の¨少し強く¨は
一般人の¨死ぬ気¨と等しい
しかし、それでも陸は動かない
逆に抱き締める力が強くなった気がして
奈々は小さく溜め息をついた
「ありがとう。でも本当に大丈夫だから離してちょうだい」
「……大丈夫じゃない」
「だから大丈夫って言ってるでしょう」
「違うって」
そう呟いて陸は奈々の肩に顎を乗せた
ふわりと香った陸の匂いに
奈々は心臓が高鳴るのを感じた
「奈々が大丈夫でも、俺が大丈夫じゃない」
奈々を抱き締めた瞬間に
溢れ出した気持ちと共に現れた
記憶を無くしていた頃の
奈々に対する態度を後悔する気持ち
あんなに悲しそうな奈々を見たのは久しぶりで
そんな奈々を追い詰めたのは自分自身で
「ごめんな奈々。俺、こんなんで」
奈々が自分を求めた時には逃げて
自分が奈々を求めた時には逃がさない
記憶を失っていたとはいえそれは真実
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