──胸がズキン、と痛んだ


なんで忘れてるのよ
なによその態度

まるで、他人みたいじゃない


自分を見つめる赤い瞳は
いつものような優しい瞳ではなく
敵を睨み付けるような鋭い瞳

奈々は思わず一歩下がったが
ドン、と背中に壁がついた


「お前、さっきから何なんだよ」

「お前だなんて、気安く呼ばないで」


そんな風に呼ばれた事ない
煩いくらいに奈々って呼ぶじゃない


「俺が記憶を無くした理由を知ってるなら、馬鹿みたいな作り話はもういいから。早く本当の事を教えろよ」


¨馬鹿みたいな作り話¨
その現実をみんなで過ごした

そんな事も忘れたのね

きっと今ここにいる理由も
あと二人の仲間のことも

全部、忘れたのね


「私は本当の事しか言ってないわ。信じるか信じないかは勝手にしたら?」


陸の横を通り抜けた

もうこれ以上は無駄
何か次の手を考えないと


「……おい、お前!」

「奈々」

「は?」


振り返らずに言った


「私はお前じゃない、奈々」

「……奈々」


馬鹿みたい

名前を呼ばれただけで
こんなに心臓が煩いなんて


早く、早く

私のこと、思い出しなさいよ


ばか陸


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