空の姫と海の王子



「春……「分かってるよ!!」


大きな声で叫んだ

周りの人の目が春に向かうのを感じて
男は小さく舌打ちをし、指を鳴らした

すると周り人々の目から春と男が消えて
何もなかったかのように普段通りに歩き出す


「……海斗」


春は振り返らずに名前を呼んだ

海斗は人の波に逆らって
春逹に近付く為に歩き出す


「春は……もう、戻らないから」

「え……?何言ってんだ?」


「……さよなら、だよ」


絞り出すような声で言って
バッと手を右に突き出した

海斗が手を伸ばした瞬間
春と男の姿は消えて
そこには桜の花が舞った

季節外れの桜の花に
また人々がざわめいた

地面に落ちた桜の花びらを拾い
海斗はそれをギュッと握り締めた


さよなら、だよ


そう言われた瞬間に
光の粒になって消えた
左手の薬指の指輪の存在に
海斗はまだ、気付いていない


もやもやとした感情が胸の奥に渦巻いて
分からない事が更に増えて

だけど、ひとつだけ分かった
あいつは俺の事を知っている

さよならだかなんだか知らないが
それは俺が記憶を取り戻してからだ


雨を、桜の花を隠すように
空から降る雨は雪に変わっていて

人が少なくなった交差点で立ち尽くす海斗は
いつの間にか白いコートを着た人逹に囲まれていた


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