「……何?」
「……何でもない。悪い」
海斗が手を離すと男は春の肩に手を置く
何故男の手を止めたのかは分からないが
この男が気に入らないのは事実だった
何故かは分からないが
「随分長い散歩だから心配したよ。さ、帰ろう……仕事だ」
「………少しでいいから、お願い……」
「駄目だ」
春は男の茶色い瞳を見つめて
そして諦めたように下を向いた
男はまた笑みを浮かべると
春と一緒に歩き出した
「待てよ」
男は海斗の横で立ち止まる
春の肩がピクリと動いた
交差点にまた音楽が流れて
人の波に巻き込まれる
だが、3人は立ち止まったまま
「お前、俺の事知ってるんだろ。教えてくれないか?」
「………」
「行こう、春」
男は春の肩を握る手を強めた
分かってるよ、と春は呟いた
二人はまた歩き出す
海斗は拳を握り締めて、叫んだ
「待てよ……春!!」
「ッ!」
春の足が止まる
空から降る雨が本格的に降り出して
人混みが一斉にざわついた
──春、これからはずっと一緒だ
声が、想いが、溢れる
やめて、今まで我慢出来たのに
厚い雨雲から降り注ぐ雨が
更に、強くなる
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