──振り上げた手を止めた

隣の部屋ではあいつが寝ている


そのままゆっくりと手を下げた


「くそ……っ」


そのまま床に座り込み
皺の寄った眉間に手を当て
海斗は深い溜め息をついた

照明の消えた暗い部屋には
床に敷かれた布団があるだけで
その布団も誰かが寝た形跡はない


モヤモヤとした頭の中

微かに過る記憶

聞こえない、声


「……何なんだよ」


何もない暗闇に取り残されたような
どうしようもない孤独感を感じ

海斗は小さく呟いた




消えた記憶

離れた心


見えない所で何かが
失われようとしていた


_