これがあの“茉梨亜”としての言動を発していたのかと思うくらい、この弟は“弟らしさ”を取り戻していた。

そしてその一筋縄ではない弟の傍で、笑ってくれている友達。

「姉として一安心だわー」

「…そういう姉さんは仕事順調?」

咲眞の問いに、微笑んでいたはずの棗の顔が一気に不機嫌を通り越す。

「順調…?んなわけないじゃない、あんなヤツをオモリしてんのよ!?」

「ちょぉバリ綺麗に出来たんだけど!!俺様ちょーカッコイイ☆☆☆」
洗面所から小躍りしながら大の大人が飛び出して来た。

「久々に見たねーヒゲ無い管原さん」
「そぅだろ〜素敵だろう〜☆」
管原はわざわざ壁際で格好良いポーズを決めてくれる。
「確かに順調って言いたくないっすね…」
「でっしょ、このマイペースだけでも直れば…」

項垂れたところで調度棗のケータイバイブが鳴った。メールの様だ。


「なぁ咲眞、俺らこれからどうする?」
「そーだねぇ、拜早はどうしたい?」
咲眞がにこりとした顔を向けた。

「拜早がしたい事、あるんでしょ?だから僕を探した」

「……」



メールを無言で読み終えた棗は携帯を閉じ、鞄に書類を詰めている管原へと振り向く。
「弾!私、用が入ったから先に行くわよ!」
「えっ」
「貴方の足なら追い付くでしょっ早く来なさいよね!」

そう管原に言葉を浴びせ、棗は自分の鞄を持ってさっさと部屋から出ていってしまった。

「ぅおーい…棗行くの早っ」
「あれ、ハンカチ落ちてる」
棗らしき物。先程携帯を取り出した時に一緒に出てしまったのだろうか。

ハンカチを拾った拜早も、棗を追い掛ける為にその場を後にする。



「ありゃ行っちまった…なぁなぁ咲眞クン、君達これからどーするのよ?」

粗方荷物を纏めた管原は、一息着いている咲眞に寄り添ってみる。


「…拜早に任せようと思って」

「?」

「拜早のやりたい事に、僕もついていく。僕の気持ちにも繋がるはずだから」

とつとつと言った咲眞を管原は見つめた。

「つまり…おまえらのやりたい事は決まってるんだな?」


「…」
咲眞は力強く頷く。